自賠責保険は、事故の相手に支払い能力がなくても被害者が救われるための強制保険です。対人のみという守備範囲、任意保険との2階建ての仕組み、国への貸付問題の現在、2026年11月からの値上げと新料金表まで、二宮の認証工場が解説します。
自賠責保険料が、2026年11月1日以降に始まる契約から引き上げられます。2026年4月の金融庁・自賠責保険審議会で決まったもので、引き上げ幅は全車種平均6.2%。値上げは2013年4月以来、約13年ぶりです。自家用乗用車の24か月契約でいえば17,650円が18,560円になります。
ただ、この記事は「いくら高くなるのか」だけで終わらせたくありません。自賠責保険は、車検のたびに「払わされている謎のお金」として通り過ぎていきがちですが、そもそも何のためのお金なのかを知ると、値上げの意味も、任意保険がなぜ絶対に必要なのかも、まったく違って見えてきます。神奈川県二宮町の認証工場として、制度の本当の役割から新旧料金表まで、順番にお話しします。
自賠責保険とは。相手にお金がなくても、被害者が救われるための強制保険
少しだけ、考えたくない場面を想像してください。あなたの大切な人が、横断歩道で車にはねられた。治療費がかかり、働けない期間の収入が絶たれ、この先の生活が変わってしまうかもしれない。そのとき、相手の運転手に貯金がなく、保険にも入っていなかったら、どうなるでしょうか。賠償する義務は法律上ありますが、支払う力のない相手から、お金は取れません。治療費も生活も、被害者とその家族が背負うことになります。
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、この最悪の事態を社会からなくすための制度です。車やバイクを持つ全員に加入が強制され、拒否はできません。未加入で公道を走れば処罰の対象になり、そもそも車検が通りません。全員が少しずつ出し合うことで、相手にお金があるかどうかで被害者の人生が左右されないようにする。ひき逃げや無保険車による事故の被害者を救済する政府保障事業も、この制度の周りに用意されています。
つまり自賠責は、自分の車を守る保険ではなく、自分が誰かを傷つけてしまったときに、その人と家族を路頭に迷わせないための備えです。悲しい事故そのものはゼロにできなくても、事故のあとの二重の悲劇は制度で減らせる。車を持つ人の「社会への会費」に近いお金だと私たちは考えています。
出るのは「相手の体」にだけ。だから任意保険は絶対に要る
ここで守備範囲を正確に知っておいてください。自賠責から支払われるのは、事故の相手の身体への損害(対人賠償)だけです。支払限度額も決まっており、ケガ(傷害)は120万円まで、死亡は3,000万円まで、後遺障害は程度に応じて最高4,000万円までです。逆に言うと、次のものには1円も出ません。
- 相手の車や壊した物の弁償(対物賠償)
- 自分の車の修理費
- 自分自身のケガ
- 限度額を超えた賠償額
死亡や重い後遺障害の事故では、賠償額が億単位になる判決も珍しくありません。自賠責の3,000万円や4,000万円は「最低限の救済」であって、実際の賠償をまかない切れる金額ではないのです。自賠責は土台であって、屋根ではありません。対物賠償や限度額を超える部分をカバーする任意保険は、名前こそ「任意」ですが、実質的には必須だと考えてください。
それでも現実には、対人賠償の任意保険の普及率は75.5%、自動車共済を含めても88.7%です(損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」より)。つまりおよそ9台に1台は、自賠責だけで走っています。自分が加害者にならない備えと同時に、「相手がその1台だったら」という備え(人身傷害補償や無保険車傷害特約)も考えておく価値がある、というのが実務からの正直な助言です。
追突されて病院に行ったとき、最初に使われているのは自賠責
自賠責を「車検のときだけ関わる遠い存在」と感じている方は多いのですが、実はもらい事故のたびに、いちばん最初に働いている保険です。たとえば追突されて、念のため病院で検査を受けたとします。その治療費は相手の任意保険会社が支払ってくれますが、お金の流れを見ると、まず相手の自賠責の枠(傷害120万円まで)から支払われ、それを超えた分を任意保険が受け持つという順番になっています。

実務では「一括払い」といって、相手の任意保険会社が窓口となっていったん全額を支払い、自賠責の負担分をあとから自賠責側に請求(求償)する形をとります。窓口が1つなので被害者からは見えませんが、構造は1階が自賠責、2階が任意保険の2階建てです。1階は強制加入なので、どんな相手との事故でも必ず存在します。
この「1階は必ずある」が効いてくるのが、相手が任意保険に入っていなかった場合です。窓口になってくれる保険会社がいなくても、被害者が相手の自賠責に直接請求できる「被害者請求」という制度があり、当面の費用に充てる仮渡金の仕組みもあります。手続きの実際は奥が深いので、別の記事で詳しく書く予定です。なお、事故直後の動き方や修理中の代車については、当サイトの事故対応の専用ページ(/accident-rentalのページ)でも案内しています。
「国に貸していたお金」の話と、それでも値上げになる理由
自賠責には、制度への信頼を揺るがせてきた問題がひとつありました。1994年度と1995年度、国は自賠責関連の特別会計から約1兆1,200億円を一般会計に繰り入れ、その後の返済が長く滞り、約5,952億円が未返済のまま残り続けたのです。運用益で賄われてきた交通事故被害者の救済事業(重度後遺障害の方への介護料支給など)の財源が細り、2023年4月からは賦課金という形で保険料への上乗せ(自家用乗用車で年125円)まで行われました。「国が借りたままなのに、ユーザーに負担させるのか」という批判は、もっともでした。
この問題は、2025年度補正予算で約5,741億円の一括返済が決まり、約30年ごしに解消へ向かっています。返済金は被害者救済事業の財源となる特別会計に戻ります。過去の運用に問題があったのは事実、それが正されつつあるのも事実。その上で、自賠責という制度自体は、被害者救済のために社会として必要なお金だと見ていくべきだと私たちは考えています。
では、なぜそれでも保険料は上がるのか。返済されたお金と保険料率は別の枠組みで、料率は保険金の収支(実費)だけで決まるからです。自賠責はノーロス・ノープロフィット原則、つまり保険会社が利益も損失も出さない建付けで運営されており、もうけを乗せる余地がありません。今回の値上げの背景は次の3つです。
- 1件あたりの支払保険金が増えている:事故件数は長期的に減ってきた一方、治療費の上昇や賃金上昇にともなう休業損害の増加で、1件あたりの支払額が増え、支払総額は増加傾向に転じました。
- 事故率の低下ペースが鈍った:2013年以降ずっと値下げが続けられたのは事故が減り続けたからですが、その低下ペースが鈍化しました。
- 値下げの原資だった余剰資金が細った:保険料収入だけでは支払いをまかなえない状態が続き(審議会資料をもとにした報道では2026契約年度の損害率は127.3%の見込み)、過去の余剰資金の取り崩しで低料率を保ってきましたが、その残高が減ってきました。
つまり、もうけのための値上げではなく、実費が上がったぶんを実費どおりに戻す改定です。物価と医療費と賃金が上がる社会では、人への賠償を支える保険の原価も上がる。納得はしづらくても、筋は通っています。
新旧料金表と、車検での実務
新しい保険料が適用されるのは2026年11月1日以降に保険期間(始期)が始まる契約からです。車検でよく使う契約期間の新旧比較は次のとおりです(離島・沖縄県を除く地域。損害保険料率算出機構の基準料率表にもとづきます)。
- 普通・小型乗用車(24か月):17,650円 → 18,560円(+910円)
- 普通・小型乗用車(25か月・車検切れ後など):18,160円 → 19,070円(+910円)
- 軽自動車(24か月):17,540円 → 18,660円(+1,120円)
- 軽自動車(25か月):18,040円 → 19,170円(+1,130円)
- 自家用小型貨物車(12か月):12,850円 → 13,710円(+860円)
軽自動車は値上げ額が大きく、改定後は軽のほうが普通車より自賠責が高いという逆転の並びになります。人への賠償リスクは車格ではあまり変わらない、という実態の反映です。なお、新旧どちらになるかは車検を受けた日ではなく保険期間の始期で決まります。継続契約は通常いまの契約の満期から途切れなく始まるため、おおまかには「いまの自賠責の満期が11月1日より前か後か」で決まります。

値上げ前に車検を前倒しすべきかと聞かれれば、正直、そのために予定を崩す必要はほぼありません。差額は乗用車24か月で910円、月割りで40円弱です。車検を大きく前倒しすると有効期間が実質短くなり、その損のほうが上回ります。満期が10月末から11月にかかる方が、通常の受検期間(満了日の1か月前から受けられます)の中で日程を選ぶ程度が、現実的な工夫の上限です。
それより大事なのは、費用の内訳を見る目です。自賠責・重量税・印紙代の法定費用は法律で決まっていて、どの工場で受けても同額。今回上がるのはこの部分で、工場の企業努力ではどうにもなりません。差が出るのは整備料だけです。当サイトの車検費用シミュレーターは、法定費用と整備料を分けて概算をお出しし、自賠責の新旧料率も時期に応じて自動で切り替わるようにしてあります。
車検費用をその場で概算する(無料)車台番号と車種区分を入れるだけ。法定費用(自賠責・重量税・印紙代)と整備料を分けて表示します。2026年11月の自賠責新料率にも自動対応。株式会社たまは、神奈川県二宮町の関東運輸局長認証工場です。二宮・大磯・平塚・小田原・中井・秦野など近隣の方の車検・整備をお預かりし、法定費用と整備料を分けた明朗な見積りを徹底してきました。法定費用の改定があったときこそ、「どこまでが社会の決まりごとで、どこからが工場の仕事か」を分けてご説明するのが誠実さだと考えています。車検の時期のご相談、保険や費用の内訳のご質問だけでも構いません。お電話またはサイトのお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
なお本記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な解説です。保険料の額・限度額・制度の詳細は改定されることがあり、個別の事故対応はケースによります。実際の契約や請求にあたっては、保険会社・代理店または当社で最新の情報をご確認ください。
よくある質問
Q. 自賠責保険と任意保険の違いは何ですか?
A. 自賠責は法律で全員に加入が義務づけられた強制保険で、支払われるのは事故の相手の身体への損害だけです。限度額もケガ120万円・死亡3,000万円・後遺障害最高4,000万円と決まっています。相手の車や物、自分の車、自分のケガ、限度額を超えた賠償には出ません。そこをカバーするのが任意保険で、実際の事故では自賠責が1階、任意保険が2階の2階建てで支払われます。名前は任意ですが、実質的には必須の備えです。
Q. 事故の相手が任意保険に入っていなかったらどうなりますか?
A. 自賠責は強制加入なので、相手が任意保険未加入でも自賠責の枠(ケガは120万円まで等)は必ずあります。窓口となる保険会社がいない場合でも、被害者が相手の自賠責に直接請求できる「被害者請求」という制度があり、当面の費用に充てる仮渡金の仕組みもあります。限度額を超える分は相手本人への請求になるため、自分の任意保険の人身傷害補償や無保険車傷害特約も備えとして有効です。
Q. 自賠責保険はいつから、いくら値上げされますか?
A. 2026年11月1日以降に保険期間が始まる契約から、全車種平均6.2%引き上げられます。車検でよく使う契約では、自家用乗用車24か月が17,650円から18,560円(+910円)、軽自動車24か月が17,540円から18,660円(+1,120円)になります。値上げは2013年4月以来、約13年ぶりです。差額は月割りで40円弱のため、車検を慌てて前倒しする必要はほぼありません。
